『2100年の科学ライフ』 ミチオ・カク

2100年の科学ライフ
以前、ワーク・シフトを読んで未来予測に関する本は物凄く面白いと感じていたので、今度は科学の側面からであるこの本を読んでみました。

普通の科学に関する予測は著者が言うように、歴史家、社会学者、SF作家、「未来学者」のようなアウトサイダーが書いたモノが多い。しかし、著者のミチオ・カクは弦の場の理論創始者の一人である理論物理学者であり、インサイダーだ。そのためにすでにプロトタイプのある技術をベースに未来予測をしている。よって、想像も出来なかった未来の話というよりは今後のキーとなるテクノロジーは何か?という話になる。

つまらないSF小説読むよりかはよほど面白いし、ワクワクする内容だ。この本で挙げられているテクノロジーの中でも重要なのは医療技術だとは思うが、全部についてコメントすると長くなるので気になったことについてだけ触れる。

穴居人の原理

紙媒体の電子化が行われるようになってだいぶ経つのに、オフィスでは未だに紙媒体が主流であることについて、「穴居人の原理」が働いているという。私たちの体は10万年前から大きく変化はしていない。そう、その頃の原始的な欲求は今も変わらないはずなのだ。それは自然界に生きる中においては「獲物の物証」が重要で、伝聞による情報には頼らなかった。また、捕食者の祖先である人間は観察することは好きでもされることは好まない。このように人間が肉体の、遺伝子レベルでの本能から多くく逸脱する技術というのは、受け入れ難いという事実をベースに未来を考えなければならないと分かる。この辺の解釈はとて面白かった。というのも、僕らがいつまで人間であるか?、次の世代とは何か?を考えるときに重要なのは、ここから抜け出せるか?だと思うからだ。

ムーアの法則の終焉

今も昔も世界の経済の駆動させているのは科学であり、そして中心はコンピュータであることは紛れもない事実だ。そしてその発展の歴史には、intelの創業者の一人のゴードン・ムーアが言った経験則の「ムーアの法則」がある。それは積回路上のトランジスタ数は「18か月ごとに倍になる」という単純極まりないこの経験則が実際に正しく将来を予測していたことにある。

各社が血眼になって3Dトランジスタを開発しているのは、トランジスタ構造を抜本的に変革しなければならない“締め切り”が迫っているからだ。MPU向けプロセスノードでは、15〜11nmの世代には、3Dトランジスタなどの構造変革が必要になると言われている。すでに、複数のベンダーが15nm(ベンダーによって16または14nmと呼ぶ場合もある)プロセスから新構造を採用することを示唆している。
【後藤弘茂のWeekly海外ニュース】Intelが22nmプロセスで3Dトランジスタ技術を採用 - PC Watch

しかし、シリコンによるCPUは物理的な限界を迎えている。もうこれ以上、小さくできないサイズにまでなってしまったのだ。だからこそ、半導体は今まさに転換期の真っ只中にいる。当面はより並列化が進んだり、メモリー部分での進化など様々な方法乗り切るみたいだが、いずれ根本的な解決が求められる。今後非常に楽しみな分野ではある。

文明の尺度について

この本を読んでいて知らなかったというのが文明のランクに対する考え方。文明を消費するエネルギーでランク付けすると、今の人類はタイプ0文明であり、0.7ぐらいらしい。

・タイプI文明…惑星規模の文明、その惑星に降り注ぐ主星の光、およそ10^17ワット消費する  
・タイプII文明…恒星規模の文明、主星が放つ全エネルギー、10^27ワット消費する
・タイプIII文明…銀河規模の文明、数十億個の恒星のエネルギー、10^37ワット消費する

イメージ的にはスターウォーズに登場する帝国がちょうどタイプIII文明に相当する。このカルダシェフの尺度は、惑星、恒星、銀河に基づく分類であるために、タイプIV文明の可能性も本では触れらていた。ちょうどグレンラガンのアンチスパイラルみたいな。

これらの文明レベルにいつ頃移行するのか、世界のGDPの成長率を1%と仮定すると、100年以内にタイプI文明に到達する計算になるらしい。まさにこの本が世よくする2100年の未来だ。

未来予測について

兵器類に関しては、まだいろんな状況での破滅的展開も十分にあるし、それこそ環境問題なんかもあるけれど、全く不安にはならない。こうやって読めば読むほど、人類は凄いなぁと思うばかり。こんなにもたくさんの人が、それぞれの方法で新しい未来に挑戦し続けていると分かるだけで、ワクワクする。まぁなんだかんだで知らなかった新しい話題は少なかったものの、やっぱりアメリカの国防高等研究計画局DARPAのような機関の存在って重要だし、とても面白い。