『CAST AWAY』  ロバート・ゼメキス監督

キャスト・アウェイ (字幕版)

FedExのエンジニアが飛行機事故で、無人島に漂流してっていうお話。

 

無人島での生活が辛いのは当然なんですけど、人間って簡単に怪我をするんだよなって、なんて無防備で脆弱な生き物なんだって出来事が次々に起こります。観ていて辛くなるし、会話相手もいない無人島だから、正気を保つのが難しい。ウィルソンってバレーボールに話しかけるようになるまでの流れも、ウィルソンが大事になっている心情も、そのウィルソンを失う時の叫びも、心にきますね。最初はウィルソンって思っちゃいますけど、時間を経過していくにつれ、感情移入出来てくるから、最後には叫びにシンクロしてしまいます。

 

 

『日日是好日』 大森立嗣監督

日日是好日

茶道を習うお話なんですけど、結構好きでした。

 

四季を感じる庭って良いよなーとか、季節の空気感、温度、雨音、光の差し込み、みたいな感じることの素晴らしさを教えてくれる作品。「すぐに分かることと、すぐには分からないことがある」っていうセリフにあるように、自分が今感じていることも、また違うように感じられる瞬間が後であったりする。この感じるってことが、案外忘れられがちというか、茶道のシーンなんかでも「考えちゃダメ、体で覚えるの」「習うより慣れろ」って言葉があるように、考え過ぎちゃうと、分からないことって確かにあると思う。

 

じんわりと染み入る感じの映画ですが、良かったです。

 

 

 

 

『潔く柔く』 新城毅彦監督 

潔く柔く きよくやわく

少女マンガが原作で、高校時代に交通事故で亡くなったハルタが忘れられずにいるカンナが禄と出会って...というお話。

 

これに限らずですが、最近、少女マンガ原作の映画も割と好きなんだなと思いました。

 

この映画は、オムニバス形式の原作の最後の話にフォーカスしているストーリーだったので高校時代の話は少し、省略されている気がしました。特に同じ男の子を好きだった女の子でも、社会人になって再び再会したときには、もうきちんと次に進んでいたりするギャップとか、補完されていない部分もあるので原作が気になりました。

潔く柔く 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)
 

 

好きだったシーンとしては、社会人になったカンナが友達に「まだ15歳のままなんだね」って言われてしまうところです。どうしても過去を引きずってしまう人の話って堂々巡りだったり、不毛なんですけど、その気持ちの強さを感じるシーンで好きです。そこからの立ち上がりも、非常に丁寧な話で良かったです。

 

 あと、カンナ(長澤まさみ)が背伸びしてキスするシーンが可愛過ぎてもうって感じでした。

 

 

 

 

 

『あやしい彼女』 水田伸生監督

あやしい彼女

オリジナルは2014年の韓国映画の「怪しい彼女」で、それの日本版リメイクの「あやしい彼女」がこの映画です。

 

ストーリーとしてはお婆さんが20才に若返って、あの時出来なかった人生を取り戻そうとするっていう話なんですが、リメイクされるだけあって脚本も良かったです。でもこの映画のポイントは、主演の多部未華子がハマり役だったことだと思います。偏屈なお婆さんが20才になったっていう役柄で癖の強いキャラクターを見事に演じていて、これでしっくりくるのはこの人しかいなかっただろうなと思いました。

 

前髪パッツンの多部未華子はやっぱり良くて、それだけでこの映画を観て良かったなと感じてしまうくらいには好きでした。

 

『東京女子図鑑』 タナダユキ監督

第一話・序章『秋田生まれの女の子』

東京カレンダーの連載が原作のAmazonプライムビデオで配信されているドラマなんですが、普通のドラマとは違い街とそこに住む人を中心に、東京に夢見る女性の20年を描く内容で非常に面白かったです。

 

全体の語り口は主人公の一人称で進みつつも、時折いろんな人の毒づいた語りも混ざっていて、東京を生きる女性を取り巻く環境をとてもリアルに表現しています。三元茶屋編から始まり、恵比寿編、銀座編、豊洲編、代々木上原編と、それぞれの社会的ステージごとに住む街の特色を周りの人間関係から感じさせてくれる面白いドラマです。

 

序盤はドキュメンタリー風な側面が強いなと思っていましたが、「人に羨ましがられる人間になりたい」というちょっと歪んだ欲望がどのように実現されていくのか、女性に降りかかる「結婚して子供を産むことが幸せなのだ」呪いのような一般的価値観の圧力を受けながら、どう変化していくのか、変わらないのかという話が主軸にあります。

 

その点、このドラマの着地点は良かったです。終盤、東京には自分がいくら足掻こうとも、勝ちようのないステータスを持った人たちがいくらでもいて、そんな人たちに負けていく自分に嫌気が差して、一度田舎に戻ります。井の中の蛙でもいいや、ここで人生を終えてもと思っているところに、高校の時の先生に出会って、進路指導の時にあなたの話をいつもしていると、雑誌の切り抜きに写る自分を見て泣いてしまいます。

そこから立ち直り、東京へ戻り、また新たな結婚をして、こんなセリフで終わります。

「頑張りましょ。次から次に、手に入れたいものは増えていくんですから」 

 

結構、毒づいた語りが多いドラマなので、「人に羨ましがられる人間になりたい」ってそんな価値観を持っていたままでは幸せにはなれないよね?、普通の幸せってこんなところにあったんだよって終わり方をするんじゃないかと思っていましたけど、変わらなかったんですよね。

 

でもそれで良かったなと思えるくらいには、20年東京で生きていた綾の人生だって悪くはないはずで、際限のない欲望に振り回されたって、人によってはそんなの不幸だって思うかもしれないけど、私はその道がいいんだっていう最終回に感じたので、満足なドラマでした。

 

 

『天冥の標VII 新世界ハーブC 』小川一水

天冥の標Ⅶ 新世界ハーブC

この巻では、第1巻の舞台である28世紀のハーブCがどのように作られていったかが描かれます。その内容は「残存人類」という言葉に代表されるように、非常に過酷で、自分たちは本当に生き残れるのか?、一体何をすることが正解なのか?何一つ分からない中で起こる悲劇と選択、生き残った人類の中で社会が形成されるまでの物語です。

 

人類が滅びたに等しい世界で少人数の人間たちで社会が形成されていく物語は過去にも読んだことがありますが、5万人と非常に人数が多く、そして成人は2%しかいないなんてシチュエーションでの生活は、要求される過酷さが一段と厳しく辛い話でした。この規模までいくと、秩序を保つための強制力なしには一瞬で破綻し、迷う時間も、話し合いによる解決に至る時間もありません。常に正しい選択など出来ない世界で、人類として生き残るのか、人として生きていたいのか?というこの二つに揺れていく、そして決裂していく人間たちが描かれていて、非常に面白かったです。

 

正直に言って、第1巻のメニーメニーシープの世界を素直に受け取っていた自分としては、その世界の成り立ちや、その背景が、この過酷な世界から生み出されたものだと知り、驚き、そして納得しました。ここまでの500年近い歴史を見せつけられた上で起きる人類滅亡寸前の惨劇と、それでも生きていく人類がどのような結末を迎えるのか楽しみでなりません。

 

『天冥の標Ⅵ 宿怨』小川一水

天冥の標Ⅵ 宿怨 PART3

ようやく「天冥の標」の1巻へと続く、VI 宿怨に辿り着きました。

 

ネタバレありきで書きますけど、色々な謎が繋がってきて、たくさんの、本当にたくさんの人間や人間でない何かの思惑のぶつかり合いによって、人類が太陽系世界が追い詰められる話になりました。

 

天冥の標は致死率95%の感染症患者が完治することがないまま生き続けることから生まれる人間たち「救世群」の憎しみの連鎖と、それを乗り越えることが出来ないままの人類の物語です。しかし、そこに人類だけではないロボットや、地球外知性まで含まれる壮大な時間スケールで展開されるところに魅力があります。

 

VI 宿怨では、救世群のトップとなったミヒルが人類を滅ぼすレベルのパンデミックを引き起こしてしまう。そして、人間に奉仕するロボットが、「救世群」の人間を救うことはもう出来なくなってしまったと判断したときに別れの挨拶しに来るシーンがとても好きでした。

 

「なんとかしなさい!」

「努力はした。物理学と社会科学の許す限り」

...中略

「それで?」

「それで、挨拶に来たんだ。さようなら、と」

 

救世群たちの救われなさは、当然の帰結ではあるのですが、それでも、それでも悲しまずにはいられないほど、彼ら彼女らの苦悩も理解は出来る。ミヒルが狂うのも、救世群の社会を維持し続けるために、どんどん過激な思想に染まっていくその流れも、500年続くその物語を見ていたら、何も言えなくなるほどに。

 

ここからどう展開していくのか非常に楽しみです。